「岩のそばで、生きていく。」クライマーの移住を考える

金曜の深夜、眠い目をこすりながら中央道を飛ばす。

土曜の朝、瑞牆の林道に車を止め、パンをかじってアップを始める。

「こんな生活、いつまで続けるんだろう」

そんな問いが頭をよぎったのは、コンビニの駐車場で寝そべったときだった。

もう登る場所のそばに住んでしまえばいいんじゃないか。

「クライマーの田舎移住」という選択肢は、夢でも妄想でもない

岩と共に暮らす──それは、真剣に考える価値のある“生き方の再設計”かもしれない。


クライマーの田舎移住、現実と可能性を考察

目次

「登りたい」だけじゃ、足りない

週末の中央道。ジムの仲間は疲れた表情で車を走らせる。目的地は瑞牆。

往復6時間以上。トライできるのは2日間だけ。渋滞に巻き込まれれば、成果も得られず帰るだけになることもある。

「だったら、岩の近くに住めばいいじゃないか。」

そう考えるのは当然だ。だが、“住む”と“通う”はまったく違う話である。

クライマーの田舎移住には夢があるが、現実には面倒もある。ここではその光と影を、岩場別・ライフステージ別に分析していきます。


クライマーのライフステージ別:移住のリアル

◆ 単身者クライマーの場合

  • 【強み】
    • 身軽。部屋も荷物も少ない。仕事も変えやすい。
    • 地方フリーランス/バイト生活/ジムスタッフなどで暮らせる可能性も。
  • 【弱点】
    • 孤独耐性必須。人間関係が閉じているエリアでは「仲間ができない」可能性。
    • パートナーを見つけにくく、出会いが極端に減る。

◆ 妻子持ちクライマーの場合

  • 【強み】
    • 子育て環境としては田舎が理想的(自然/静けさ/遊び場)
    • 家族でのびのびした暮らしを楽しめる
  • 【弱点】
    • パートナーの理解が絶対条件(「岩のそばに住みたい」は一方的な夢)
    • 教育・医療・子供の友達関係など、都市より圧倒的にハードルが高い

◆ 子育てが終わった世代(40代後半〜)

  • 【強み】
    • 夫婦だけ or 単独で再設計しやすい。セカンドライフとして選択しやすい。
    • 年金や副収入で静かに岩に向き合える理想の暮らし
  • 【弱点】
    • 地域社会に溶け込む難しさ(定年後の移住者は「謎の人」と思われがち)
    • 健康・医療へのアクセスが命綱。病院の距離は死活問題

田舎移住に必要な「現実力」

◆ 岩が近いだけではダメ。最低限、考慮すべき項目

  1. 登れない時期の生活設計(冬、梅雨、猛暑)
  2. 天候変動への柔軟性(週単位で雨に祟られるエリアも)
  3. 地域コミュニティとの距離感(消防団、町内会、草刈り…無視できない)
  4. 働き方の再設計
    • リモートワーク可能な職種か
    • ジムスタッフやアウトドア関係で働く選択肢
    • 月10万円程度で最低限生きられる生活水準にする

◆ 移住の例:

  • 「週3リモートワーク×週末は岩場」というハイブリッド生活をしている都留在住クライマー(40代)
  • 「農業バイトで生活費を抑えつつ、登るときは全力投球」という小川山移住者(単身・30代)
  • 「子育て後、延岡に夫婦で移住。登れる日は登り、畑とカフェで時間を過ごす」(50代)

「登るように、生きる」ための選択

都会にいながら、遠征に全力を注ぐ人生もいい。

だが、クライミングが「ただの趣味」ではなく「生き方」になった人にとって、田舎移住はむしろ自然な帰結なのかもしれない。

そのとき大事なのは、「移住は逃避ではない」という視点。

“面倒ごと”を引き受ける覚悟があってこそ、ようやく岩と日常がつながってくる。

クライマーにとって田舎とは、課題のようなものだ。

一手一手を冷静に読み、持てる力で乗り越えた先にしか「本当の快適さ」はない。

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